ウワバミソウ

6月の終わり、
ブナ林を流れる沢へ降りてみた。
以前この場所でウワバミソウの群落に遭遇している。
もう十年も前だろうか。
当時はまだ森林公園としてよく人の手が入っていて、
急な斜面に太いロープが下がっていたので
何だろうかと降りてみたのだった。

キノコ採りの時期で、
ウワバミソウには赤いコブがたくさん付いていた。
夏も終わりに近づくと、
ウワバミソウの茎には葉の付け根ごとに赤いコブが出来る。
当初は周囲の人達から
虫の産卵によるもの(虫癭)だと聞かされていたけれど、
数年眺めているうちに、そうではないことがわかってきた。
あるとき赤いコブに触れてみると、
茎がコブのところで簡単に折れて地面に落ちた。
よく見ると赤いコブからは、
すでにポチポチと細かな根か葉のようなものが出始めている。
この植物は葉の付け根に花を咲かせる。
どうやら山芋のムカゴのように、
この瘤玉によって世代を更新しているのだ。

一般に利用される茎の部分は
コブがつく頃にはすでに固くなっていて食利用には向かないけれど、
そのコブが案外面白い。
ウワバミソウの赤い根本はヌメリがあって特に美味しいけれど、
やがて根となる赤いコブにも強いヌメリがあり、美味しい。
さっと湯に通すと赤いコブが緑色になる。
色々と工夫できそうだけれど、
オドサマは簡単に辛子マヨネーズや塩昆布和えで楽しんでいる。
ヌルカリとした歯応えが面白い。
塩蔵にも向くので、冬にも楽しめる。

コブの話しばかりしてしまったけれど、
今現在はまだ本命の茎の部分が旬。
期待通り沢のあちらこちらに群落が点在し、
太いものを選びながら摘みとる。
故郷の青森ではこの山菜を「ミズ」と呼び多用する。
「水もの」と言われる郷土料理があり、
折りながら丁寧に皮を剥いて色よく茹でたミズと昆布、
それにアワビやホヤなどを一緒に塩水に泳がし冷やして頂く。
暑い夏、お客さんがあったりしたときの定番料理だ。
味噌と一緒に包丁で叩いて作るトロロも美味しい。

新潟・上越のこの辺りでは「さわな」と呼ばれていて、
炒め煮や粕漬けなどで利用されている。
皮は葉と一緒に「こぐ」程度で、
あまり念入りに剥いたりはしない。

ウワバミソウで山菜シーズンも一区切りだ。
そろそろ畑の夏野菜が食卓を占めるようになってきた。