ヒラタケ(2011冬)
ほどなく雪が降りだしそうな12月の某日、
すっかり葉を落とした林を抜ける道で、ヒラタケと出会った。
ほんの道端の土手の上のナラの枯れ木が目について、
その表面が不自然にデコボコして見えたので車を止めた。
今季は初めてお目にかかる。
なんか忙しくて、毎年行く自分のとっておきの場所にも行けず仕舞いだった。

仕事の移動中なのだけれど、
やはり雰囲気のあるところに雰囲気のある木があると、
チラッと目が行ってしまう。
以前、友人の車に乗っていて、
「キノコの出そうな山だなー」と言ったら、
「どこがちがうの?」と不思議顔。
アカマツとミズナラ他の混生林が道の両側に広がっていた。
そう、興味の無い人の目には、木はどれも、ただの木にしか見えない。
ブナだろうがスギだろうが、
その実を食べたり、その枝葉を焚き付けに利用したりしない人には、
みな一様にただの木なのである。
自身の営みと直接の関わりがなければ、そんなものである。
いつかの台風の夜、
一本の木が自宅に寄りかかってしまった。
リョウガンという木だった。
切り倒した木口が赤々としていて、独特な臭いがある。
古老に訊くと、
「軽くて腐りにくくてね、昔はこれで梯子(はしご)を作ったり、鍬の柄に使ったりしたもんだ」と。
ウルシの仲間らしい。
生活に必要な資材のほとんどを身の回りの自然から得てきた人達の知恵は、
もう僕らの親の世代にも伝わっていない。
キノコはその名のとおり、発生は樹種と関わりが深い。
だから狙ったキノコを探すには木を覚える必要がある。
そんな風にして、いつの間にか木のことも分かるようになってきた。
興味のある一点を深く掘り下げていくと、
どうしても穴が広くなってしまう。
知識ってそんな風に培っていくものなのかなと気付いてから、
勉強が楽しくなってきた。
傘が開ききっておらず、ちょうど食べ頃だ。

さて、どう料理してやろうかと考える。
このキノコ、西洋では「オイスターマッシュルーム」と呼ばれているらしい。
形をカキ殻に見立てたものか、
それとも牡蠣が旬の頃に発生するからなのか、
由来はよく分からないがオイスターつながりということで、
一緒に炊いてみることにした。

牡蠣が小っちゃくなっちゃったけど、
若々しいヒラタケが牡蠣の出汁を吸ってプリプリと歯応え満点。
日本酒が進み過ぎてしまいました。